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金融危機から世界大不況へと進む中で、「資本論」の解説本が売れているようです。書店には挿絵やマンガなどを使ったものなど、たくさんの種類の「資本論」が並べられています。今日、『高校生からわかる「資本論」』を買いました。
▲(池上彰著、発行:ホーム社、発売:集英社、1300円+悪税)
著者の池上さんは、元NHKのアナウンサーで、平易な文体が好感を呼びます。この本も、春休みを使って高校生に講義をした内容を本にしたとか。たしかに分かりやすそう。しかし分かりやすいから買ったのではありません。ソ連など社会主義を目指した国々(官僚的に歪曲された労働者国家)やロシア革命に対する、あまりにもステロタイプな評価が、最初と最後に記されていたから買いました。ひねくれてるね。
著者の池上さんは、「社会主義」と呼ばれたソ連などの崩壊の理由を述べています。
「資本主義のような自由勝手な商売はさせないようにしようというのが社会主義の考え方です。・・・すべて国がやりましょう、会社はすべて国のもの、国営企業となりました。
ということは、会社が倒産することはないわけだよね。・・・給料がみんな同じ。逆にいうと働いても働かなくても給料は同じ。どうせ給料が同じなら働かないほうが、サボっていたほうがすっといいよね、という人たちが出てきて、経済があんまり発展しなくなるわけです。
・・・・・・だんだん経済の力が弱まっていく。そうなると不満を持つ人もいるでしょう?不満を持つ人は共産党が弾圧をしたり、不満を言うとすぐ捕まってしまったりということが続きましたが、それに対する不満が高まり、とうとう一九九〇年前後に、社会主義の国が次々に崩壊していってしまった。」
(17~18頁)
そして最後にも、世界最初の社会主義革命であったロシア革命に対してこんな決めつけをしています。
「マルクスは資本主義が発展することによって、そこで働いている労働者が協業を通じ、組織化された活動を通じて鍛えられ、人間的に全面的に発展していき、その力でもって社会主義革命が起きると考えていたんだね。
だから労働が高度な知性と教養を持ち、みんながお互い協力しあいながら世の中をつくっていこうという社会主義革命が起きて、それが成功するだろうと考えていた。
ところが実際に世界で革命が起きたのは、ロシアであり、中国だった。まだ労働者がほとんどいない、ほとんどがみんな農民。労働者がほとんどいないときに、一部のインテリが、一部の大学生たちがマルクスに共鳴して、革命を起こしてしまった。
どこにも組織された労働者はいなかった。社会全体をみんなで変えていこう、よくしていこうという労働者はいなかった。ごく一握りの革命家と呼ばれる人たちが、「ああしろこうしろ、言うことを聞かないやつは殺してしまえ」みたいなことをやったことによって、ソ連や中国もうまくいかなかった。」
(278頁)
確かに実際の歴史と無関係に資本論を学んだところで何の意味もないと思います。しかし、ソ連・東欧の崩壊の総括がこんなにもステロタイプだとは、高校生を、青年をあまりになめてませんか。
ロシア革命の意義にしてもそうです。労働者がほとんどいないとか、一部のインテリや学生が勝手に革命を起こしたとか、事実と違うこともさることながら(そんなことで革命は起きません)、当初マルクスの予想していた「先進国革命」ではなく、帝国主義の最も弱い環である後進的なロシアで革命が起きたことが、そんなに悪いことなのですか。では、ロシアの労働者や農民はあのまま無為無策のツァーの帝国主義戦争の犠牲となれとでもいうのでしょうか。
ボリシェビキによる権力簒奪ではなく、ブルジョア民主主義革命を?ツァーの帝国主義戦争を支えてきたロシアのブルジョア階級は、2月革命後に権力の座につきますが、戦争は継続、民族自決権は認めない、農地解放は中途半端、労働者の要求を実現することができない、という状況の中で、反動的将軍らの反乱に動揺し、ロシア人民に見捨てられてしまいます。この危機の中で、プロレタリアートが権力を握らなければ、結局のところ、反動的将軍らの軍事的支配が、無数のロシア民衆の屍の上に再建されたでしょう。それをみすみす見過ごすことが、はたしてマルクスが期待したことだったでしょうか。
パリ・コミューンの意義を高く褒め称え、その敗北の総括を情熱的に後世に伝えたマルクスとエンゲルスが、1917年10月にペトログラードにいたら、きっとレーニンやトロツキーと同じく、すべての権力をソビエトへ!と訴えていたでしょう。
池上さんの著書を通じて、資本主義や社会主義、ロシア革命に興味を持たれた学生、青年労働者のみなさん。なぜソ連が崩壊に至ったのかについては、トロツキーの『裏切られた革命』を読まれてはどうでしょうか。ソ連邦崩壊の50年以上前にかかれたものですが、「資本論」とおなじく弁証法的唯物論的に基づいてソ連崩壊の源流を描いています。
ロシア革命の意義についてはエルネスト・マンデルの『1917年10月―クーデターか社会革命か』がお勧めです。『トロツキー研究』五号でも「10月革命の擁護」を特集しています。
ソ連邦崩壊、スターリニズムの総括は必要ですが、池上さんのような主張では、高校生や青年たちに対する誠実な総括にはならないでしょう。
(H)