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インターナショナル・ビューポイント オンライン・マガジン 423号 April,2010.

(編集部注)この論文は、まだ激突が起きる前のものであり、その分だけ今回の対立の政治的な枠組みが、より総論的に書かれています。


▲「赤シャツ部隊」のバイクデモ(4月12日)

タイ―「階級戦争」の新段階

ダニエル・サバイ

http://www.internationalviewpoint.org/spip.php?article1846

 バンコクの街頭で一週間以上にわたり、「赤シャツ」部隊がデモをしてきた。おもに北部、東部からやってきた十五万人に達するデモ参加者は、静かに、そしてすばらしいユーモアを示しながら、早期の国会選挙と民主主義への復帰を求めている。

 デモ隊は、前首相タクシン・シナワトラ(2006年9月のクーデターで打倒された)の支持者、共和制支持者、民主主義の復活を求める活動家からなる広範な連合組織、反独裁民主主義全国統一戦線(UDD)の旗の下に集まっている。

 デモ参加者が名づけるこの「階級戦争」は、2006年9月のクーデター以来のタイの深刻な危機を示している。この国は以前にも増して、バンコクのエリートたちと、ほとんどが北部・東部諸州に住む農民と労働者である民衆と貧困層に分裂したままである。

 王制に支持されて2006年のクーデターを促した軍部は、王制、官僚、軍部、民主党が支配する古くからの政治的やり方――それはタクシン政権の五年間のうちに大きく掘り崩されていた――を復活させようとした。億万長者としての自らの利益を守るために政権の座についたタクシンは、数年のうちに政治的・経済的生活を支配することに成功した。ビジネスと政治が密接にからみあっている国でタクシンは、王室一族や、タクシン一族と関係を持たない「大金融家族」の経済的・金融的利害を直接的に脅かした。

 同時に彼は巧みなやり方で貧しい人々に有利な政策を採用した。そうしたことは以前のタイでは、決して起こらなかったのである。そのため彼は、民衆諸階級の支持、国王と人気を争うほどの支持を堅固なものにした。バンコクのエリートたちはそれに太刀打ちできなかった。国王は「国家の統一」を保証する存在であり、実際国王は最近まで民衆諸階級のあらゆる要求を抑え込み、体制に有利な形でシステムを維持することに関わってきた。

 タクシンは、タイの政治システムの力関係をひっくりかえすことが困難で危険なことを身をもって学んだ。エリートたちは、それが伝統的秩序の維持に反するのであれば、投票箱の審判を受け入れるつもりはない。

 2006年の春以来、選挙で民主的に選ばれた三つの政権――いずれもタクシンを含む――が、王制の支持の下に軍事的あるいは司法的に引きずり降ろされた。民主党の指導者、アビシット・ヴェイジャジヴァが率いる現政権は、2008年の議会連合の逆転を促した軍部により政権の座に据えられた。民主党は国内では少数派であり、数十年にわたって選挙で勝利したことがない。民主党は2006年のクーデターを支持した。それ以来アビシットは多くの課題で軍部の価値ある同盟者であることを実証した。しかし軍部と王制にとって、問題が迫っている。一年以内に選挙があり、民主党は選挙で勝ちそうもない。

 われわれはこうした政治的文脈の中で、二月末の司法の決定を見るべきである。2006年のクーデター以後凍結されていた、タクシンと彼の元妻であるポジャムが保有する七百六十六億バーツの資産のうち460億バーツが裁判所によって差し押さえられた。これは、タクシンに対する体制派の闘いにおける新しいエピソードである。当初軍部は、タイの司法の途方もない力に依拠してタクシンの党を破壊する方策を探っていた。実際、軍の指令で作成された2007年の新憲法は、党員の一人が過失を犯したと見なせばその党を解散させる権限を裁判官に与えている。この可能性はすでに二度にわたってタクシンと彼の党である「タイ・ラク・タイ(TRT、タイ人はタイを愛す)」と、その後継組織である民衆の力党(PPP)に対して使われている。タクシンの亡命にもかかわらず。王制と軍部は彼をタイの政治から消し去ることに失敗した。そこで今、彼らは他のあらゆる政治的オルタナティブと登場を阻止するために、タクシンの別の権力手段であるカネの問題に取り組んでいるのである。

 民衆諸階級は、司法の審判について、きわめて不公正であり、いかにタイの裁判所が二面性を持っているかの例示と見なしている。クーデターを支持したスワンナプム空港の襲撃事件の責任者は、一年半以上たった今も法廷に送られてはいない。

 この司法審判によって、UDDの指導者たちは現在の動員の組織化を決定した。百万人をバンコクに結集させるという目標にははるかに及ばなかったし、政府は議会解散に道を開いていない。しかし支配階級の情報を受け売りにする無数のコメンテーターが書いていることとは違い、この運動は数多くの素晴らしい政治的目標を達成した。

 第一に、「赤シャツ」は全国的な政治の場に決定的な形で参入し、古いエリートたちはもはや彼らの存在の重みと要求を無視することはできない。十五万人を結集したUDD(反独裁民主統一戦線)は、その動員力と本物の人気を見せつけた。こうした運動は、アナリストの歴史的評価によれば、タイが立憲王政になった1932年以来見られなかったことである。さらに戦線(UDD)は、その社会的基盤を拡大した。

 もはやこの闘争は、農村の集団がバンコクのエリートと中産階級に反対するものと言うことはできない。中産階級の一部は、政治的にも経済的にもクーデターで支払わされた高いコストに気づくようになっており、今や民主主義の再確立を追求する運動を支持している。現在の政治システムは完全に分解しており、現在82歳で呼吸器疾患のため数カ月も入院している国王の死は、このシステムの崩壊をもたらす可能性がある。自由選挙と州への権力の最低限の移譲によってのみ、この政治危機を解決できると信じているのは「赤シャツ」だけではない。

 「赤シャツ」が獲得した人気、この運動への支持の広がりは、民主主義と社会的公正の回復をめざす長期の闘争にとって新たなステップである。現在の出来事は、しばしば提起されたように、この運動はブルジョアジーの異なった部分の間での対立であるとか、都市と農村の対立である、とは語れないことを示している。この分裂は深刻であり、支配階級の特権への疑問、言い換えれば階級的相違に基づいている。

 タイの民衆諸階級は、真に自らの利益を代表する政党を奪われたままである。この運動は、政治の側面からの労働者の排除に終止符を打つ最初のステップである。しかしタイ社会の真の民主化のためには、タクシン型のポピュリストから自らを全面的に解放し、社会変革の真のプログラムを発展させることが必要である。

▼ダニエル・サバイは「インターナショナルビューポイント」バンコク通信員の一人。

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