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山田洋次監督の映画『母べえ』を観た。原作は、黒澤明監督の記録係を務めた野上照代さんが、幼い頃の思い出を綴ったノンフィクション作品である。

『母べえ』予告編


「かあべえ」 公式Webサイトはこちら

舞台は1940年の東京、日中戦争が泥沼化しつつある頃、お互いを母べえ、父べえ、初べえ、照べえと呼び合う仲の良い家族。その家庭に夜明け前、特高警察が土足で侵入し家宅捜索が始まる。父、滋は子どもたちの目の前で縛られ、「奥さん、今度は長くなりますよ」という特高の声とともに連れ去られていく。治安維持法による逮捕だ。平穏な暮らしは、滋が逮捕されてしまったことで一変してしまう。

 滋がいなくなった翌朝、それでも日常は淡々と流れていく。母べえは子どもたちを学校へ送り出しながら、特高の土足で汚れた床を拭く。このような弾圧、人権侵害が人々の心のひだにどのように深く食い込み、沈殿していくのかを日常のゆっくりとした流れの中で描いていくのである。

 父親に面会に行った娘の照子が、父の風貌のあまりの変わりように驚き、「お父さん、臭かった。」と泣き続ける。外見にとらわれずに真実を見抜くには、照子にはまだ時間が必要だった。家族が長い年月をかけて培ってきた人間関係の微妙なひだをずたずたに引き裂き続けていくのである。新年を迎えても滋は帰らず、やがて日本はアメリカとの戦いに突入していく。

 「悲しい話なのになぜか重苦しい気分にならない」、という感想を持つ人も多い。弾圧を受けてもたくましく生き続ける母べえの姿は希望を与えてくれる。しかしそれは、たとえ夫、父親の逮捕、死という悲しい出来事に直面しても、日々は否応なく過ぎていくということ、そしてそのことだけを悲しんで生活することすら許されない、抵抗も出来ない、という現実にすぎない。第三者からみれば「たくましさ」「明るさ」すら感じてしまう事の本質が母べえの最後の言葉に凝縮されている。

 最後の場面、時代は現代に移り、美術教師になった照子が死の床にいる母に、「お父さんや戦地へ送られ死んだお兄ちゃんに会えるね。」というようなことを語りかける。そこで静かに物語りは終わると思っていた。しかし照子は、母の返答を聴いて泣き崩れる。「生きているお父さんに会いたかった。」という言葉にである。照子にしか聞こえない小さな声で語ったそれを死の床に集まった人々が知った時、周囲には新たな悲しみが湧き起こる。

 そしてこの弾圧の本当の意味を皆があらためて思い知ることになる。悲しい歴史を背負った母べえが、それでも最期は娘たちに囲まれて静かに息を引き取るのかと思った。死に行く母べえが最後に発したこの言葉には、一つの弾圧が一個の人間に与えた罪がどれほど重いものであったかということ、そして死後に希望をつなげることで延命してきた戦争国家というものに対する批判も表現されていると思った。

 この物語に出てくる母べえ、父べえ、初べえ、照べえは、治安維持法下で弾圧された何万もの人々、そして治安維持法という言葉が無くなった今でも形を変えて続いているこのような弾圧に踏みにじられた多くの人々の姿そのものである。

 様々な困難に遭遇しながらも、それでも母べえは最期まで生き抜いた。しかし生き抜くことができなかった人もいる。運よく解放されたとしても、被弾圧者やその周辺の人々の痛みや被った被害は、容易に修復することは出来ない。弾圧の形やその後の生活破壊も家族の様子も程度も、その形は踏みにじられた人々の数だけある。そこに共通するものは権力による不当な暴力、権力・国家犯罪によって引き起こされたものであるということだ。何の罪も無い人々が国家の思惑により、その人生を奪われたのである。

 この映画には反戦、反弾圧のメッセージが少ないと感じる人もいる。しかし一つの弾圧を境に人権、生活破壊が静かに進行していく様は、それこそが治安弾圧の本質であり、ゆえに強烈な反弾圧、反・戦争国家へのメッセージとして伝わってきた。

 そして今も、現代の特高(公安警察)によって、このような弾圧は引き継がれ、繰り返されている。第二、第三の母べえ、父べえ、初べえ、照べえを二度と出してはいけない。このような犯罪を繰り返している現代の特高、公安警察、そしてそれに追従している多くの警察官が これ以上犯罪を繰り返すことを
許してはいけない。(B)

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