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▲『現職警察官「裏金」内部告発』
仙波敏郎 著 講談社 1500円

警察裏金は、有印私文書偽造・同行使、虚偽公文書作成、詐欺、背任、業務上横領罪のオンパレード

 仙波さん(元愛媛県警巡査部長)は、2005年1月、現職警察官として初めて警察の裏金作りの組織犯罪(有印私文書偽造・同行使、虚偽公文書作成、詐欺、背任、業務上横領罪のオンパレード)を告発する記者会見以降、愛媛県警2800人と全国警察組織約30万人を相手に闘いぬいてきた。「現職警察官が警察犯罪を告発!」「警察は犯罪組織です」などというセンセーショナルな見出しで仙波さんの告発は、各メディアに取り上げられ全国警察に大きな痛打を与え、民衆に衝撃を引き起こした。本書は、そのすさまじい闘いのドキュメントであり、仙波さんの奥底にある怒りのマグマを読者に真正面から問いかけた告発本である。


若き警察官たちへの希望

仙波さんは、「多くの人が警察の腐敗の実態を知り、警察を監視するようになってほしい。それは必ず、日本全体をよくすることになっていくはずだ」ということを確信しながら、警察官僚らの数々の嫌がらせ、挑発に乗らず断固としてはね返し続け、この3月31日に定年退職を迎え42年間の警察官人生を終えた。ひとつの一つの節目を確認するとともに「これからは市民の一人として、警察を監視していきたい」と決意し、同時に「若き警察官たち」に警察の公正化のための努力していく姿を「希望」し、期待を込めて訴えている。

引ったくり警官は、愛媛県警盗犯係主任

 ところが仙波さんの「希望」をあっけなく破壊するとんでもない事件を同じ愛媛県警の警官が起こしてしまった。「また愛媛県警かよ」と単純に笑えないところに事態の深刻さがある。

6月4日午後7時50分ごろ、愛媛県警松山南署刑事1課盗犯係主任の野村尚史巡査部長(29)が、岡山市中区の路上で、買い物に行くため歩いていた女性(75)の背後から歩いて近づき財布(約1万円、クレジットカード1枚)をひったくったのだ。女性が悲鳴を上げ、現場付近に居合わせた高校生2人が巡査部長を自転車で追いかけ取り押さえ、駆けつけた警官が窃盗容疑の現行犯で逮捕した。野村は、岡山県警岡山中央署に連行された。

 松山南署によると野村は、県警本部長表彰2回を含む16回の表彰を受けていたが、キャバクラに頻繁に通い、約250万円のカードローンを抱えていたことを明らかにした。警察幹部らは、野村の犯行を個人責任として切り捨て、自己保身に延命しようとする必死な姿がみえみえだ。野村の犯行は、盗犯係主任として体得した窃盗犯の技術を悪用したのである。取り押さえた高校生らは「捕まえる側の警察官が捕まるなんて世も末」とあきれていた。岡山県警は、感謝状などを検討するというマンガコントみたいな落ちである。

さらにお笑いのおまけ付きだ。野村ひったくり事件の前日の5日から警視庁は、ひったくり緊急対策強化期間中のための動画を警視庁ホームページで配信中だった。ひったくり緊急対策統括事務局管理官がはりきって「「あなたは卑怯者だ」「逃げても無駄だ」「警察はあなたをとことん追い詰め、逃がさない」と警告していたが、この報道に「力強い声が空しく響いて聞こえてしまう感は否めない。とりあえず自分の防犯意識を高める必要はありそうだ」などと揶揄される始末だ。

「ニセ領収書づくり」の次は新たな手法━超過勤務手当て割り増しのウソ申告

 仙波さんは、このような事件が再発することをある程度、予測していた。仙波国賠裁判二審勝訴後、愛媛県警の現職警官から新たな裏金作りの告発手紙が届いたことを紹介している。それは(裏金作りのための)「ニセ領収書づくりの強要がなくなった代わりに『超過勤務手当』を割り増しして支給し、キックバックさせる裏金づくりが広がっている実態を告発する。この組織は、どこまでいっても裏金体質から抜け出せないようだ」。

 つまり、インチキ名前・住所・捺印の領収書作りから超過勤務手当の割り増しのウソ申告による有印私文書偽造・同行使、虚偽公文書作成、業務上横領罪が成立する悪質な犯罪を強行しているのだ。すべて警察幹部の指令にもとづいて行われているから、共謀共同正犯として成立する悪質な組織犯罪の泥沼にはまり込んでいるのである。このように警察幹部は、裏金などの権益を巧妙に温存し、犯罪を繰り返し、下部警察官たちは上司の犯罪を黙認し、加担し、自らも共犯者として成長しながら、いわゆる「不祥事」、否、犯罪を繰り返すのである。これは明らかに組織構造上の必然的な結果であり、悪循環を繰り返し、肥大化しているのである。

 2003年の北海道警察の裏金問題発覚を契機に、全国の警察組織で裏金問題が連鎖的に発覚するという事態に直面し、関係警察幹部を切り捨てることによって必死に延命してきた警察権力機構が重大な危機に陥っている。仙波さんの断固とした犯罪をしないという意志、多発する警察犯罪を許さない市民オンブズマンネットワークとの協力によって蓄積してきた成果であり、闘う民衆の共有財産であることを確認したい。

公安警察による左翼的思想の警官や組織批判者への監視活動

 最後に仙波さんを支持するもう一つの根拠を紹介しておこう。それは公安政治警察批判も行っているところだ。本書の第三章「日本最大の犯罪組織」の中で「警察には『闇の警察組織』といわれる警備課・公安課があり、組織内の不穏分子||私のように組織の悪を批判する者や左翼的思想の警官などを、あの手この手で監視する。そんな暇があるのなら、凶悪犯罪や未解決事件に取り組むべきだ。そして、市民を見殺しにしたり、冤罪に陥れたりする『警察による犯罪』を、本気で撲滅すべきなのである。」と力を込めて結論づけている。そのとおりだ。反警察・公安政治警察解体運動にとって必読文献の一冊として薦める。(Y)

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