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VAWW─NETジャパンの抗議アピールを支持し、NHK幹部、介入した政治家たちを包囲していこう。

 6月12日、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は、旧日本軍の性暴力を裁いた「女性国際戦犯法廷」(2000年12月)を取り上げたNHK番組改変事件(原告・『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネット))でNHKと制作会社2社に賠償を命じた東京高裁判決(07年1月)を破棄し、請求棄却の不当判決を出した。

 判決は、高裁が認定した取材対象者の「期待権」について「原則として法的保護の対象にならない」などと否定した。さらに、安倍晋三、中川昭一ら自民党国会議員の介入、NHK上層部の改変指示の関連性について判断しなかった。つまり、バウネットの請求を全て棄却し、NHKの主張と政治家を全面的に擁護したのである。

 NHKは、「今後も自律した編集に基づく番組制作を進め、報道機関としての責務を果たしていく。どのような内容の放送をするかは放送事業者の自律的判断にゆだねられており、正当な判断と受けとめている。最高裁は『編集の自由』は軽々に制限されてはならないという認識を示したものと考える」などと述べ、あくまでも政治家の圧力を否定し、「公正・中立」などという看板を投げ捨て権力に奉仕する報道機関として生き延びていくことを宣言した。

 6月10日、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)は、NHK番組改変訴訟の控訴審報道(07年1月29日)でバウネットの主張を排除し、NHKの自己正当化のみの報道を「不公平」であり、放送倫理違反があったと指摘した。だがNHKは、最高裁判決後のコメントでわかるように、民衆のための報道機関を目指すのではなく、組織と体質の欠陥を直視せず是正していくことはもちろんのこと、反省の姿勢すらも感じられない。安倍にいたっては、番組改竄圧力の下手人であることが明白となっているのに「最高裁判決においても朝日新聞の報道が捏造(ねつぞう)であったことを再度確認できた」などと言い放っている。最高裁不当判決を糾弾し、NHK幹部、番組改変に介入した政治家たちの犯罪をあらためて社会的に暴露し、包囲していこう。

勝利の高裁判決

 バウネットと支援は、NHK番組改変事件裁判闘争を以下のように闘ってきた。
 01年1月、教育テレビで特集番組「戦争をどう裁くか─問われる戦時性暴力」が放映された。NHKはバウネットに「法廷の様子をありのままに伝える」と説明し取材をしていたにもかかわらず、番組は法廷映像と被害者証言が短く、加害兵士の証言と昭和天皇の有罪判決シーンなどの重要な部分をことごとくカットしていた。また、右翼学者を登場させて「法廷」批判と被害者たちへの暴言をそのまま映し出した。

 バウネットは、NHKの番組改竄の強行に対して、公開質問などを出し、説明を求めた。当時のNHKの吉岡教養番組部長と遠藤番組制作局主幹は、「「制作会社が作ったものはNHKが作ろうとしたものと全く違ったので、直しました」と居直り対応だった。ところが放映前日に「異例の試写」があったことを朝日新聞が報道し、上層部の意図的な改変圧力が判明する

 バウネットは、このようなNHKの対応や「女性国際戦犯法廷」番組を改ざんして放送したことが、日本軍性奴隷制(「慰安婦」 制度)の戦争犯罪の隠蔽し、被害女性たちの名誉を傷つけたのであり、さらに視聴者に誤解を与え、市民の知る権利と表現の自由を侵害したのだと厳しく批判した。01年7月24日、信頼(期待)利益の侵害、番組内容改編の説明義務違反の二点を柱に、NHKと制作会社二社に損害賠償を求めて東京地裁に訴えた。

 東京地裁(04年3月24日)は「番組内容に期待を抱く『特段の事情』がある場合、編集の自由は一定の制約を受ける」と述べ、バウネットの信頼利益を侵害したとして、直接取材したドキュメンタリージャパンのみ損害賠償請求を命じ、NHK、NHKエンタープライズ21の請求は棄却した。

 04年7月28日、控訴審が始まる。

 朝日新聞(05年1月12日)は、番組の担当チーフプロデューサーだった長井暁氏が、当時の中川経産相、安倍自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼びだし、「偏った内容だ」などと圧力をかけていたことを内部告発し報道した。

 後日、記者会見で長井氏は、「中川、安倍が、放送直前に同局の国会対策担当だった総合企画室の野島直樹担当局長を呼び出し、番組の放送中止を要請してきた。当時の松尾武NHK放送総局長の指示で一部をカットした」ことを「不利益を被るかもしれないと悩んできた」ことを明らかにしつつも、「NHKは独自の判断で編集したと説明しているが、現場の声を無視し、政治的圧力を背景に番組を変更した。幹部の責任は重大」と明言した。

 高裁は、長井告発を柱ににして、「安倍晋三前首相(当時は官房副長官)らの発言をNHK幹部が必要以上に重く受け止め、意図をそんたくして当たり障りのない番組にすることを考え、改変を指示した」と認定した。そして、「編集権を乱用し、自ら放棄したに等しく、原告の番組内容に対する期待と信頼を侵害した」のであるから
「バウネットの期待権を侵害したことによる不法行為責任を負う」「説明の義務も怠った」と判断し、三社に賠償を命じた。NHK番組改変事件を許さない全国運動のねばり強いスクラムによって勝訴判決をかちとったのだ。

最高裁の判決は「最低判決」だ

 しかし、立川反戦ビラ不当判決など国家権力の意志を代弁した反動判決を、この間出している最高裁は、NHK番組改変事件に対して政治家の介入圧力による番組改変の判断を避けつつ、取材対象者の「期待権」に関して「取材に応じることで著しい負担が生じ、取材側が必ず取り上げると説明したような極めて例外的な場合に限られる」 と狭め、絞り込んだ規定を「動員」してきた。棄却判決を正当化するために無理矢理でっち上げた「論理」でしかない。

 あげくのはてに横尾和子裁判長は「取材対象者が取材内容を一定の内容で放送されると期待、信頼したとしても、それは原則として法的保護の対象とはならない」と強調し、土俵を抽象論にずらし、数々の重要な事実、原告の主張をバッサリと切り捨てる手法を選択した。

 つまり、NHKの指示監督下にあるドキュメンタリージャパンの「番組提案」を基にして協議を積み重ねてきた事実、女性法廷や判決シーンまで放送することを説明していた事実、取材活動への「多大かつ特別の便宜」を与えていた事実などを抹殺してしまったのである。棄却判決を前提にしているため、こんな乱暴な論理構成になってしまったのだ。「最低判決」は、明白だ。こんな判決を絶対に許してはならない。

 バウネットは「表現の自由は死んだ! 編集権への政治家の介入を容認した最高裁判決」だと厳しく糾弾している。さらに、「この判決の結果、報道機関の現場スタッフは萎縮し、取材を受ける側は報道機関にどのように報道されるか全く予測ができなくなり、取材に応じることができなくなってしまった」「憲法21条を『市民のための
表現の自由』から『政治家のための表現の自由』に変貌させた歴史的な判決というべきであり、国際的に批判を受けることは間違いない」と警鐘乱打している。VAWW─NETジャパンの抗議アピールを支持し、最高裁不当判決を批判していこう。
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(遠山裕樹)

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