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11月15日、新潟の中学生(当時)、横田めぐみさんが拉致事件から30年がたった。朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮とする)の工作員によって下校途中に拉致されたとされるこの事件は北朝鮮のゆがんだ政治体制の象徴として日本国内の「反北」世論に火をつけ、両国の関係をさらに悪化させたことは周知のことである。

2002年9月の小泉首相(当時)の「電撃的」平壌訪問と日朝平壌宣言署名からすでに5年以上が経過してしている。この会談で金正日総書記は「情報機関の独走」による拉致の事実を認め、その後拉致被害者5名は日本に帰国しものの、他の拉致被害者に関して北朝鮮政府は全員「死亡」ないし入国の事実なしとして継続的な真相究明を拒否している。日本国内の世論は北朝鮮に対して硬化し、北朝鮮への経済制裁、送金停止、さらに日本と北朝鮮の連絡船、万景峰(マンギョンボン)号の入港禁止、さらには朝鮮総連の関連施設への強制捜査や公共施設使用の差し止め、“微罪弾圧”など政府による対北強硬路線が現在まで続いている。


一方で、朝鮮半島の情勢は今年に入り大きく動いている。特にこれまで北朝鮮を「悪の枢軸」とまで呼んでいたアメリカがテロ支援国家指定解除の可能性に言及し、すでに両国はその具体的なプロセスに入っていると思われる。昨年10月の北朝鮮政府による核実験強行にもかかわらずその後再開された六ヶ国協議では北朝鮮の核「無能力化」とすべての核計画の申告、そしてその「見返り」として日本を除いた参加国による北に対する重油提供について合意した。日本は拉致問題の解決を優先させるべきとしてこの合意を拒否しているが、事態は(紆余曲折は予想されるものの)着実に朝鮮半島の緊張緩和へと向かいつつある。

そうした中で拉致被害者家族会と拉致議連は11月15日に訪米し、ヒル国務次官補と面会し、北朝鮮への「テロ指定解除」をしないよう要求したが、ヒル次官補は「(解除は)大統領が決めること」と明言をさけるなど、結果は指定解除がアメリカにおいて既定路線となっているということを再確認しただけであったと言えるだろう。六ヶ国協議、「テロ指定解除」・・・・こうした北朝鮮を巡る国際的枠組みの中で拉致の問題は急速に後景に退こうとしている。

朝鮮半島の緊張緩和はそれ自体は歓迎すべき事である事は言うまでもない。福田首相も拉致よりも核問題を優先し、北朝鮮との交渉のチャンネルを開くことには前向きだ。「拉致と過去の清算を同時並行でおこなう」(福田首相)という方向が堅持されるのであるならば南北含めた朝鮮半島(韓半島)と日本の市民の間にも新しい展望が開けるのかも知れない。しかし、問題は「制裁」にせよ「対話」にせよそれらが一体誰のために行われようとしているのか、だ。これまで日本政府は日本人拉致被害者救出を「人道的」観点から主張し、独自の経済制裁や軍事制裁の可能性まで拉致議連所属の議員からとびだすなど、力によって拉致問題の解決を図ろうという没政治的姿勢をとり続けていた。日朝平壌宣言から現在まで行われてきたのは、北の脅威や拉致という「国民的憎悪(恐怖)」を煽ることであり、そのなかで例えば昨年の北の核実験強行時に見られたような「日本の核保有論」といった類の拉致問題解決とは全く関係のない議論が日本国内で公然と叫ばれていたのだ。そして、事態が行き詰まり「圧力」が上手くいかないと見るや今度は「対話」に手のひらを返そうとする・・・「圧力」だろうと「対話」であろうと、その目標がはたして「平和」や「友好」といった価値に本当に基づいているのか、注意深く見ていく必要があるのではないだろうか。

こうした、右派・改憲派による拉致問題の政治利用によって問題解決のためのチャンネルをつくる機会はこの5年間失われ続けた。六ヶ国協議その他、北との外交的交渉の機会はあったのであり、(植民地時代の“清算”についての問題はありながらも)「拉致問題解決に誠実に取り組む」ことをうたった日朝平壌宣言をテコに、国交回復と拉致問題を並行させて進めていく努力を模索するべきであった。制裁や排外主義を煽ることこそ拉致問題の解決を遅らせ、被害者とその家族の苦しみを放置し続けてきたのではないか。

もちろん、拉致という行為は何ら正当化できない国家犯罪であり、その責任は金日成から現金正日政権にまで連なる権威主義的個人崇拝と官僚独裁によって硬直化した北朝鮮の政治体制にある。おびただしい数の餓死者、政治犯収容所、そして中朝国境にあふれる大量の難民、これらすべての元凶は北の体制そのもである。国内の窮状にもかかわらず体制の生き残りのためには核実験までも強行した北朝鮮政府のありかたは朝鮮半島及び東アジア民衆の利益に全く反しているし、南北の朝鮮半島民衆双方にとって北の現体制は抜本的に変革されなければならないのは言うまでもない(もちろん我々東アジア民衆のためにも)。そのことはいささかもあいまいにする必要はない。左派の一部が主張するような、拉致が冷戦という「歴史的」な不可抗力であるとか、拉致問題自体を右派のイデオロギーの一部として切り捨てることはもちろん正しくなはない。こうした発想は結局、個々の人間の権利ではなく、言うなれば「国家」という単位を物差しにして個人の権利を“足したり引いたり”しているのであって、その点では先述した右派の拉致問題への姿勢と遜色がないようにも思われる。

順調にいけばアメリカによる北朝鮮のテロ支援国家指定解除は来年の早い段階には実現するだろう、すでに核の無能力化のための査察を北朝鮮は受け入れており、重油などの見返りのメドもついた米朝双方にとって緊張緩和のハードルはそう高くはないだろう。南北首脳会談や南北を結ぶ鉄道の開通(12月11日から)など、韓国と北朝鮮との南北融和、一体化も進んでいる。朝鮮半島情勢は南北一体化とそのあと必然的に訪れるであろう朝鮮半島北部の市場経済化、そして(中、日、露も含んだ)東アジアにおける新自由主義経済のさらなる激化とその矛盾の拡大という新しい局面をも見据えて展望していかなければならないだろう。こうした流れの中で、非核化や民主主義、平等、自由などといった東アジア民衆の普遍的利益をいかに追求していくのかは我々一人一人が文字通り「草の根」から朝鮮半島の人々との人的交流、オルタナティブ構築のための共同作業を実現していけるかどうかに掛かっている。

拉致問題の解決と日朝間の対話促進を同時進行させることと、そのための第一歩として日朝間の「国交樹立」のための努力が求められている。
(H)
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◇参考

在日コリアン青年連合
日朝首脳会談から5年、あらためて日朝国交正常化を求める

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