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 『キャンピタリズム~マネーは踊る』を観た。2009年9月15日のリーマンブラザーズ破綻から一気に広がった経済危機をアメリカ民衆の立場からとらえたドキュメンタリーだ。
『キャピタリズム マネーは踊る』(原題:Capitalism:A Love Story) 
マイケル・ムーア監督 上映時間:127
 
予告編 


腐敗しきった金融業界のトップが財務長官という国家権力にまで登りつめるアメリカ。「サブプライムローン」という強奪的金融を世界中にばら撒いて、べらぼうな成功報酬を得る金融業界のトップやそこから利益を得る政治家たち。銀行救済の名目でつぎ込まれた7千億ドルもの国費の行方もだれも分からない。強欲資本主義の実例がつぎからつぎにスクリーンに映し出される。
 
一方で、急激な利息の高騰でローン返済ができなくなり、マイホームから追い出される庶民たちも登場する。高利貸しによる差し押さえの手先として強制執行に当たるのは地元の保安官たちだ。完全に泥棒どものガードマンに成り下がっている。
 
こんなデタラメな時代は、レーガンに象徴される新自由主義がもたらした。レーガンは景気浮揚政策として金持ち減税や企業優遇政策をとる一方、当時最強といわれた航空管制官労組のストライキに対して大量解雇という弾圧を行った。たたかう労働組合に対する弾圧は、アメリカだけでなく、日本の国労潰しやイギリスの炭労弾圧など、どこでも新自由主義攻撃の号令となった。

 金融危機で工場閉鎖と失業の危機にさらされる労働者たちも登場する。「仲間たちと離れ離れになるなんて考えられない」と涙を浮かべながらに訴える。「キャピタリスト」どものギャンブルのツケを支払わされるのが、工場から締め出される労働者でありマイホームから追い出される庶民たちである。
 
カメラは、マイケル・ムーア監督の故郷、ミシガン州フリントにもとぶ。かつてゼネラルモータース(GM)の生産拠点があった町だ。監督の父親はGMの労働者だった。かつて工場が立ち並んでいたであろう広大な空き地で、父親に聞く。「一番いい思いでは?」。父親はこうこたえる。「やっぱり仲間たちのことだ」。
 
とはいえ、途中まで観てふと疑問が浮かぶ。「被害ばかりが登場するが、アメリカの人々の闘いの姿が出てこないな・・・」と。だが心配は無用だった。後半に、いくつもの闘争のエピソードが当事者へのインタビューを含めて登場する。涙なしには観る事のできないシーンだ。
 
ムーア監督は、キリスト教大国アメリカのもうひとつの側面を映し出す。労働争議の現場で司祭がミサを行う。「みなさんの行いは正義です」と。監督は何人もの神父に「資本主義とは」と問う。「それは悪です」「イエス様ならそれに関わることさえ拒否されたでしょう」と。アメリカにはオバマを「社会主義者」などと罵倒するキリスト教極右派だけでなく、人々の苦しみに寄り添う宗教家たちが存在していることを垣間見ることができる。
 
そして最後にはウォール街でムーア監督自身による一大闘争(?)が映し出され、観客にむけてたたかいに立ち上がろうというセリフで締めくくられ、エンドロールには「インターナショナル」とウディ・ガスリーの「ジーザスクライスト」が流れる。(ジーザス・クライストなどの歌詞はこちらのブログに詳しい)
 
まだまだたくさんのエピソードやキャピタリズムの驚くべき腐敗ぶりが登場するが、こんな下手な紹介文よりも、さまざまな映像資料や編集手法を駆使し、ムーア監督自身がナレーションを行っている本編をぜひぜひ見てもらいたい。
 
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以下は、この映画を見たやや辛口の批評だ。その正否は映画を観た皆さん自身で考えてほしい。
 
ひとつには、あまりに「一国主義」な内容である、ということだ。アメリカ市民向けにつくられたということを割引いたとしても、アメリカの「中産階級」の存在それ自身が、世界中、とくにラテンアメリカなどからの富の還流によって下支えされてきたということが全く出てこない。「マネーは踊る」という日本語版のタイトルにあるように、70年代から80年代にかけて、マネーはまさに「踊る」かのように、ラテンアメリカをはじめとする世界中にばら撒かれ、そしてそれがメキシコの通貨危機を引き起こし、その後の通貨危機の温床になっている。それはいまだに解消されていない。借金に借金を重ね続けて飽くなき消費を支え、そして破綻したマネー資本主義の源流は、本作品でノスタルジックに取り上げられている時代につくられてきたといえるのではないか。
 
それと関連するかもしれないが、タイトルの「キャピタリズム」、すなわち資本主義が、なぜ今回のようなマネー資本主義に行き着いたのか、ということも分からない。作品だけ見ていると、強欲な金融業界と政治家によって行われた規制緩和や優遇政策によって引き起こされたということしか分からない。だがマネー資本主義とその崩壊に至るには資本主義システムそれ自身が内包する問題がある。ドキュメントという手法ではそれを描き出すことは難しく、またその必要もないのかも知れないが、その点に不満が残った。
 
そして、「憲法」が高く評価されているという点にもやや違和感が残った。第二次大戦終戦間際に行われたルーズベルト大統領の最後の演説が登場する。ルーズベルトは演説の中で、この悲惨な大戦が終了すればすべてのアメリカ国民に医療、福祉、教育、雇用などが行き渡るような社会をつくる、というアメリカ憲法が保障する様々な権利を実現する「権利章典」を提唱する。ルーズベルトはこの演説から程なくして亡くなる。それから60年、アメリカではいまだそのどれもが実現していない、とムーア監督は訴える。それ自体は歴史の事実として正しいことなのだろうが、その対比として紹介されたのが日本やドイツなどである。
 
ルーズベルトの部下たちは、占領下にあった日本やドイツで憲法策定に尽力する。日本では社会保障がつくられ、ドイツでは企業の横暴を規制する法律がある、と。だが日本の社会保障は、与えられたものではなく、日本の人びとが(世界的な階級闘争を背景・下地にしつつ)たたかいとってきたものである。確かにそれは企業社会への組み込みという社会的包摂の一面があったとしても、だがそれは依然として階級闘争の産物なのだ。「キャピタリズム」に登場する労働者や民衆による闘争がまさに階級闘争の産物であるのと同じように。
 
さらに辛口。この階級闘争に関連して、「キャピタリズム」が怪物化する大きなきっかけとなったソ連・東欧の労働者国家群の崩壊についてもほとんど触れられていない。冒頭に流れるパンクの神様イギー・ポップの歌「Louie Louie」の菓子の中やナレーションのいくつかにソ連邦の崩壊については触れられているが、それがどのような意義を持ち、かつ現在のマネー資本主義と呼ばれる腐朽しつくした資本主義を導いたのかについて思考をめぐらすことができるような流れに、本作品がいきつかないところがやや残念ではある。
 
官僚独裁と統制経済的に歪められたソ連・東欧の労働者国家は、官僚的統制経済の当然の帰結として帝国主義諸国との労働生産性における競争に敗れ、かつもうひとつの世界を目指す人びとの希望と連帯を断ち切り、裏切ってきた。ましてやすでに存在しない社会である。「キャピタリズム」に登場しなくても当然なのかもしれない。だが今年はベルリンの壁崩壊や中国民主化運動から20年の年であり、当時の人々は、社会主義に向けた民主的改革という希望を掲げて立ち上がっていた。資本主義ではない世界を模索しているであろうムーア監督の作品が、この問題をほとんど取り上げなかったことはいささか残念である。
 
とはいえ、「かつては社会主義を目指した運動があった」などとノスタルジーに浸ることはできない。ベネズエラからは「第五インターナショナル」の呼びかけが発せられ、先住民の運動を背景にした社会主義を目指す運動が大統領選挙と議会選挙に勝利したというニュースがボリビアから届くいま、資本主義の危機を二度も救うことになった「社会主義を目指した運動」である社会民主主義とスターリニズムの教訓を厳しく振り返らなければならないだろう。それは私たち自身の運動の歴史も厳しく振り返る作業とともなうことは言うまでもない。
 
気候変動や民族問題、セクシャリティや文化・芸術など、現代的な様々な課題に立ち向かう力強くそして柔軟で豊かな社会運動や反資本主義運動に集う人びとともに、そして資本の搾取と国家権力の抑圧と家父長制の暴力に苦しむすべての人びととともに、マネーが踊り踊らされる資本主義を打倒し、次の社会を模索する希望と連帯に満ち満ちた踊り踊るためにも。
 
(H)

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