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▲衝突直前の「雲」に焦点を合わせればぶつけているのは海保船であることが見て取れる

「尖閣」中国漁船衝突事件と海保ビデオ流出
追跡・逮捕の全過程を公表せよ
逮捕正当化のための編集ビデオではなく全情報の開示が必要だ

あわてふためく菅政権の反動化

 菅政権は、グローバル派兵大国建設の一環として横浜APEC警備と称して警察・自衛隊など24000人以上を配備し「戒厳態勢」を繰り広げた。その一方で釣魚諸島付近での海上保安庁巡視船による中国漁船拿捕事件ビデオが保安官による動画投稿サイト「ユーチューブ」流出問題、公安政治警察外事三課の人権侵害に満ちた対テロ捜査デッチアゲ書類のインターネット流出問題が次々と発生し、ドタバタを繰り返している。しかも大阪地検特捜部による村木えん罪事件でインチキな検察機構の実態が満天下に明らかとなり、証拠ねつ造の実行犯・前田元検事ともみ消しを図った上司らを「トカゲの尻尾きり」逮捕をすることによって、最高検を先頭に組織防衛を貫徹し強引に終息へと着手している真っ最中に起こってしまったのである。

 横浜APECを前にして日本統治機構の脆弱性が世界的に露呈してしまい菅首相は大慌てだ。仙石官房長官にいたっては、拿捕事件ビデオ流出に対して秘密保全法制の検討、国家公務員の守秘義務の罰則強化まで言い出している。日米核持ち込み疑惑、沖縄返還財政密約等々、民衆を欺いてきた自民党政治と同じ手法を繰り返しているのである。民衆への全情報の開示は、民主主義と公正社会の最低条件だ。菅政権による情
報操作と隠蔽工作、強権化を許してはならない。

「44分」ではなく「10時間」検証を

 ビデオ流出の第一の問題点は、9月7日、巡視船「よなくに」が釣魚諸島付近で操業していた中国漁船を発見してから領海からの退去警告、漁船の逃走、さらに四隻の巡視船で追跡し追い込み挟み撃ち、巡視船「みずき」が漁船に強制接舷し保安官が乗り込み、エンジン停止させ拿捕、船長逮捕などの全過程の映像約十時間分が明らかになっていないことだ。

 そもそも保安官がユーチューブに投稿した映像(11月4日)は、9月下旬、海保内ネットシステムで海上保安大学校(広島県呉市)に保管されていた共有フォルダから研修用に編集された改ざんビデオデータ(44分)だった。何件かのアクセスが確認されており、誰でも入手できる状態だった。

 保安官は、中国政府を「刺激」したくない菅内閣が11月1日に衆参両院の予算委員会理事らに限定して六分五十秒に編集したビデオを公開することで逃げ切ろうとした浅はかな意図がみえみえであったため、その策動を破綻させ、「改ざん」した編集ビデオを配信して海保防衛をはかったのである。政府の拿捕事件情報操作に対して保安官は、「この映像は、国民の誰もがみるべきだ」と事前に大阪読売テレビに持ち込み、取材にも応じ、同時に神戸市のネットカフェからユーチューブに投稿し、映像を公開(11月4日)したのであった。しかし、これも編集されたものである。切り取った映像を一人歩きさせるのではなく、10時間にわたる全ビデオ映像の検証を含め、そこに至るまでの全真実を明らかにすべきだ。

 さらに、メディアは繰り返し漁船が巡視船に「衝突」するシーンを垂れ流し、ナショナリズムを煽っているのが現状なのである。これでは拿捕事件の全貌を掌握することはできない。中国政府との極度に緊張した事態に発展した中国漁船拿捕事件の真実を民衆が「知る権利」があるのだ。

「操作・統制」の強化を許さない
 
 政府は、拿捕ビデオ流出が国家公務員の守秘義務違反だとして海保に被疑者不詳のまま東京地検と警視庁に刑事告発(11・8)。保安官は、送信したネットカフェが特定された段階で11月10日に自首。国家公務員の守秘義務違反容疑で事実上の「逮捕」監禁状態で事情聴取中だ(神戸・第5管区海上保安本部庁舎内)。

 ところが検察内で保安官のビデオ流出が国家公務員違反か否かで割れているそうだ。法務省主流派は、映像が捜査資料として提供を受けたものだから(刑事訴訟法)47条の『訴訟に関する書類』に該当し、訴訟書類を公判前に公開することを禁じている規定に違反。さらに海保の人間でなければ見られない映像で職務上知りえた秘密だと判断している。反主流派は、映像は誰でも見られる状態だったのであり、拿捕事件について誰でも知っている事実だから逮捕せず、起訴猶予なのではないかと吐露している。極め付けが「あまりにも国民の声を考慮しすぎると、国家公務員法が成り立たない」とボヤク法務官僚もいるほどだ。このように菅政権の統治能力の危機が始まっているということなのだ。

 菅政権の稚拙な政治能力の現れはこれだけではない。報道によれば、拿捕後、海保が船長逮捕の判断を政府に打診したところ海保所管の前原国交相(当時)が逮捕指示の電話をしたと言う。つまり領土主義ナショナリスト前原の対中国強硬路線の延長のうえで、これまでは中国漁船の違法操業に対して外国人漁業規制違反で対応してきたが、漁船の「接触」「衝突」事態によって船長逮捕に踏み込んでしまったのである。事件発生から12時間もかかって政府は船長逮捕の指示を行ったのたが、逮捕後の中国政府の猛烈な反発を想定していなかったらしい。結局、中国の猛反発に菅政権は耐えきれず、船長を処分保留で釈放し、無責任な後始末で逃げ切ろうというのが実態だ。

 これ以上の菅政権の反民衆的政治手法を排し、拿捕事件ビデオ全面開示させ、この事件の全容を解明せよ。都合よく切り取った映像を最大限利用しようとする各勢力の思惑を許さない。

 なお今回の事件で権力は、保安官の本人確認をしていなかったネットカフェ店をクローズアップし「犯罪の温床」「ネットカフェ法整備必要」などとキャンペーンも行っている。東京都が七月、ネットカフェ規制条例施行強行を「全国に先駆けて」プライバシー侵害を行っていることに触れず持ち上げている。拿捕ビデオ流出問題に便乗した人権侵害の強化を阻止しよう。(11月14日 Y)
 

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