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インターナショナルビューポイント08年10月号
ブッシュの戦争の危険な拡大 パキスタン国内での米国の越境軍事作戦
http://www.internationalviewpoint.org/spip.php?article1538&var_recherche=tariq
タリク・アリ
さる七月、パキスタン政府の承認ぬきでパキスタン国内で米軍が攻撃作戦を展開することを正当化する大統領命令の決定が公表され、ブッシュ政権内およびその周辺での長期にわたる論争に終止符が打たれた。ヒラリー・クリントンとの長いバトルの中でこの進行中の議論を意識していたバラク・オバマ上院議員は、パキスタンへの米国の軍事攻撃という政策を支持し、ヒラリーを出し抜こうとしていた。ジョン・マケイン上院議員と副大統領候補のサラ・ペイリンは、この意見を繰り返し、今やそれは合意によって米国の公式政策になった。
その影響はパキスタンの軍内部そして国全体に深刻な危機を作りだし、破局的なものとなりうる。パキスタン人の圧倒的多数は、この地域での米軍のプレゼンスに反対しており、それが平和にとって最も深刻な脅威だと見ている。
それならば、米国はなぜ決定的に重要な同盟関係を不安定化する決定を行ったのか。パキスタンの中では、一部のアナリストたちは、これこそアフガニスタンとの国境の不毛の地を越えて危機を作りだす道を拡大し、パキスタン国家をさらにいっそう弱体化させるための注意深く調整された動きである、と主張している。彼らの意見によれば、その究極の目的はパキスタン軍から核の牙を抜き取ることにある。もしそれが事実だったとすれば、ワシントンがパキスタン国家の分裂を本気に決意したことを意味する。パキスタンはこれほどの災難を、単に生き延びることすらできないからである。
しかし私の意見では、戦争の拡大は、それよりもはるかに大きくブッシュ政権のアフガニスタンでの破滅的な占領と関連している。タリバンのゲリラがカブールに近づくほど、ハミド・カルザイ政権が日を追って孤立していることは秘密でも何でもない。
疑問が生じた時には戦争を拡大するというのが、古い帝国のモットーである。パキスタンへの軍事攻撃は、カンボジアを爆撃し侵攻するというリチャード・ニクソン大統領と彼の国家安全保障顧問であるヘンリー・キッシンジャーの決定(それは結局のところポル・ポトとその極悪の体制の権力掌握を導いた)と同様に、決してうまくいかず今やますます悪化している戦争を救い出すための絶望的な試みなのである。
NATOの占領に抵抗している勢力が、パキスタン―アフガン国境をいとも容易に越えているのは事実である。しかし米国は、彼らとの暗黙の取引にしばしば関わってきた。探りを入れた何人かの人びとがパキスタンでタリバンに突き出されてきたが、米国の諜報専門家はスワート(パキスタン北西辺境州北部の山岳地帯)のセリーナホテルに定期的にチェックインして、地方の親タリバン派指導者のムラー・ファズルッラーとの討論の可能性を追求してきた。
事態はアフガニスタン国内でも同様である。二〇〇一年の米国のアフガニスタン侵攻以後、タリバンの中間レベルの指導部のあらゆる層が、再結集と今後の計画を練るために国境を越えてパキスタンに向かった。二〇〇三年までに、彼らのゲリラ部隊はアフガニスタンで占領軍への攪乱作戦を開始し、二〇〇四年には彼らは地域で新しい世代の獲得を開始した。獲得された人たちは決してジハーディスト(聖戦主義者)ではなく、彼らは占領自体によって急進化してきた人びとである。
西側メディアの世界では、タリバンは完全にアルカイダと一体化されているが、実際にはタリバン支持者のほとんどはきわめて地域的な関心によって駆り立てられているのである。もしNATOと米国がアフガニスタンから去ることになったら、彼らの政治的変化はパキスタンの飼い馴らされたイスラム主義者ときわめて類似したものとなるだろう。
今やアフガニスタンにおいて新生タリバンは、カンダハル、ヘルマンド、ウルズガンの各州の少なくとも二十の地域を支配している。こうした地域の当局の多くがゲリラ戦士の密接な支持者であることは、ほとんど秘密ではない。彼らはしばしば農民反乱派として性格づけられているが、南部の都市でも多くの支持を獲得してきたし、二〇〇六年にはカンダハルで「テト攻勢」型の攻撃さえ指導した。当初、カルザイ大統領の同盟者を支持してきたムッラー(イスラム教の宗教指導者)は、今やあらゆる所で外国人とカブールの政府に反対して結集している。初めて、非パシュトゥン人地域(パシュトゥン人はタリバンの基盤となっている民族)である北東部国境地帯のタカール州やバダクシャン州でさえ、ジハード(聖戦)の呼びかけが発せられている。
新生タリバンは、「外国人」が国を去るまではどのような政権にも参加しないと語ってきた。それは米国の戦略目標に問題を提起している。それが現実であれば、今年初めにブルッキングス研究所でNATOのシェファー事務局長が聴衆に提示したように、アフガニスタンでの戦争はアフガニスタンに「良き統治」を広げることやアルカイダの残党を壊滅させたりすることとはほとんど関係ないのではないか。それは、二〇〇五年冬の「NATOレビュー」で戦略家が概括したように、「二一世紀にはNATOは、その境界を越えてシステム的安定を構想するような……同盟とならなければならない」という理由で、NATOの焦点を欧州・大西洋地域から拡大するためのマスター・プランの一部ではなかったか。
この戦略家は次のように続けている。
「地球の権力の重心は、抑えがたい形で東方に移動している。それにつれて権力の性格自身が変化している。アジア太平洋地域はこの世界に多くのダイナミックで積極的なものをもたらすが、しかしそこでの急速な変化は安定的なものでもなければ、安定した制度を据えつけるものでもない。それが実現されるまで指導することが、欧州と北米、そしてそれらが設立した機関の戦略的責任である。……このような世界の戦略的有効性は、正統性や実行可能性ぬきでは不可能である」。
こうした戦略は、中国とイランの双方の国境に永続的な軍事力を配置することを意味する。こうしたことがほとんどのパキスタン人やアフガン人にとって受け入れがたいものであることを考えれば、それはこの地域に永続的混乱状態を作りだすだけであり、いっそうの暴力とテロ、そして極端なジハード主義への支持の高まりをもたらし、それがはねかえって、すでに過剰なまでに広がった帝国をいっそう伸びきらせることになるだけである。
グローバリゼーションの支持者はしばしば、米国の覇権と資本主義の拡大は同じことであるかのように語ってきた。冷戦の期間ではそのように言えたが、かつての二つの目標は今やさかさまの関係になっている。幾つかの点では、資本主義の拡大自身が世界における米国の覇権を浸食しているのである。グルジアにおけるロシアのウラジミール・プーチン首相の凱歌は、この事実の劇的なシグナルだった。米国が進める大中東構想は、ユーラシア諸国全体へのアメリカの優位性を示すものとしてデザインされたものだったが、驚くほどの混沌に陥り、警告の対象と指定された当の国家からの支持を必要とするようになっている。
間接選挙で選ばれたパキスタンの新大統領アシフ・ザルダリ――殺害されたベナジール・ブットの夫であり、上流社会の「ゴッドファーザー」――は、アフガニスタンのハミド・カルザイを唯一の外国代表として就任式に招待することで、米国の戦略への支持を示唆した。カブールの信用を失った「太守」と彼を対にしたことは、ワシントンの一部の者を感動させたかもしれないが、彼自身の国でこの亡きブットの夫への支持をさらに低めるだけである。
パキスタンで鍵を握っているのは、いつものように軍部である。すでに強化されている国内での米国の攻撃がエスカレートし続けるならば、軍最高司令部の団結の誇示は真の緊張状態に置かれるかもしれない。九月十二日にラワルピンジで行われた軍司令官の会合で、パキスタン軍参謀総長のアシュファク・カヤニは、最近のパキスタン国内での米国の攻撃への比較的穏健な調子の公式非難を述べ、満場一致での支持を得た。その中で彼は、国境と主権を「あらゆる代償を払っても」守る、と述べた。
しかし、軍が国家主権を守ると述べることは、実際にそれを行うこととは別である。これが矛盾の核心である。おそらくこの米国への非難は十一月四日(米大統領選挙の投票日)には止まるだろう。おそらく「豚(口紅をつけていようと、つけていまいと)は空を飛ぶ--(訳注『豚は空を飛ぶ』とは『そんなことは起こらないだろう、まさか』の意だが、ここではオバマが共和党副大統領候補ペイリンに「口紅をつけた豚」と評したこととかけており、米軍の攻撃にパキスタン軍が軍事的反撃をすることなどまさかないだろう、という意味か」。
この地域で真に求められているのは、アメリカとNATOがアフガニスタンからの出口戦略である。それはパキスタン、イラン、インド、ロシアを含む地域的解決策を必要とする。この四カ国は、アフガニスタンでの全国政権と大規模な社会的再建の保障となりうる。たとえどうなろうとも、NATOとアメリカは底知れぬほどの失敗を被ったのである。
▼タリク・アリはパキスタンで生まれ育ち、現在はロンドンに住んでいる社会主義者の作家・放送キャスター。彼はとりわけベトナム戦争からイラク戦争にいたるまで反帝国主義キャンペーンで活動してきた。
(「インターナショナルビューポイント」08年10月号)